1.『聖灰の暗号』 帚木蓬生(新潮文庫) 現代&14世紀 南仏 ドミニコ会
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※現代の歴史学者が中世の異端カタリ派の謎を追う、歴史サスペンスミステリ。 修道院が舞台ではありませんが、主な登場人物の一人が14世紀のドミニコ会修道士です。 【あらすじ】 歴史学者の須貝彰は、南仏の図書館で中世の異端カタリ派に関する古文書を発見した。 それは、ドミニコ会修道士が記録したカタリ派に関する希少な手稿だった。 須貝は、精神科の女医・クリスティーヌと共にカタリ派の謎を追う。 だが、須貝に関わった人々が次々に不審な死を遂げ… 【この物語について】 物語は、須貝と14世紀のドミニコ会修道士レイモン・マルティの二人の視点から、交互に描かれ進行します。 須貝彰は、歴史学者で、フランス語とオキシタン語に堪能。 レイモン・マルティが書き残した羊皮紙に秘められた暗号を解き、 更に、隠された手稿を発見すべく、カタリ派ゆかりの地を旅します。 一方のレイモン・マルティは14世紀のドミニコ会の修道士。 カタリ派信徒の話すオキシタン語と、教会の公用語のラテン語が堪能で、異端審問の通訳を務めました。 カタリ派の聖職者や信徒と接する内に、心情が変化し秘密の手稿を書き残しました。 13世紀の頃の南フランスでは、異端とされていた「カタリ派」が広く信仰されていました。 ローマ教皇はアルビジョワ十字軍を南フランスに派兵し、カタリ派信徒に対する大虐殺が行われました。 1244年、カタリ派最後の拠点モンセギュールの山砦が陥落し、多くのカタリ派信者が火刑に処せられました。 作中の古文書は、1316年に記されたことになっています。 カタリ派の信条・教義や迫害の実態を記録した古文書が公になることを恐れる「ある人々」によって、 関係者が次々に消されていきます。 これは怖い… 読みながら、親切な協力者の中に実は敵が紛れているのではないかと疑心暗鬼になったり、 ハラハラドキドキのし通しでした。 更に、私も秘密を知った一人として消されてしまうのではないか…と、びくびくしてしまいました… もちろん、作中に登場する古文書(手稿)はフィクションですから、本作もフィクション。 秘密を知ったからといって、消されることはない筈…(多分) 【カタリ派について】 カタリ派は、10世紀半ば、フランス南部とイタリア北部で活発になった民衆による宗教運動。 カタリ派に関する資料はほとんど残っていないため、教義の詳細は不明だが、 当時のカトリック教会の聖職者の堕落に対抗したのが起源と思われる。 1028年の教会会議で正式に異端とされた。 12世紀には比較的穏健にカトリックへの復帰を求められていた。 1209年、「アルビジョア十字軍」の編成。 1229年、カタリ派に対抗するため、異端審問制度が始まる。 1244年、カタリ派最後の砦モンセギュール陥落。多くの信者が火刑に処せられた。 1330年以降、異端審問の記録からカタリ派の名前は消えた。(2016/05/29記) ↑このページの先頭に戻る |
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1.『我らの罪を許したまえ』 ロマン・サルドゥ 山口羊子・訳(河出書房新社) 13世紀後半 南仏〜ローマ教皇庁 ドミニコ会・その他
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※13世紀後半の南フランス〜ローマ教皇庁を舞台にした歴史ミステリです。 【あらすじ】 1284年の冬、南フランスのドラガン司教区で、アカン司教が何者かに惨殺される。 助任司祭のシュケは、事件の真相と司教の過去を調べるため、パリへ向かう。 一方、事件後、ドラガン司教区に着任した青年司祭のアンノ・ギは、 「呪われた村」と呼ばれる村に潜入し、教会の教えを伝えようと力を尽くす。 更に、元十字軍騎士の英雄アンゲラン・デュ・グランセリエと、 その息子で不祥事を起こした修道院長のアイマールの二人が辿る道はどこへ到るのか。 三つの運命が交錯するラストに待ち受ける事件とは? 【この物語について】 いわゆる「ミステリ」と聞いて思い浮かべる展開とは、異なるかも。 異端審問とか、謎の組織とか… 怪しくて不気味な中世の魅力をたっぷり味わうことができます。 ただし、流血シーンが多めですので、耐性のない方はご注意下さい。 登場人物は、とても豪華(?)。 司教 司祭 助任司祭 異端審問官 フランシスコ会修道士 ドミニコ会修道士 修道会院長 女子修道会院長 元十字軍騎士 教皇 ラテラノ宮殿の警護兵 実在するローマ教皇が登場した点は、驚きでした。 フィクションの筈なのですが… さて、13世紀の頃の南フランスでは、異端とされていた「カタリ派」が広く信仰されていました。 ローマ教皇インノケンティウス三世は、アルビジョワ十字軍を南フランスに派兵しました。 1209年、十字軍によってペジエで大虐殺が行われました。 アルビジョワ十字軍の後は、ドミニコ会が異端審問官として権威を振るいました。 1244年、カタリ派最後の拠点モンセギュールの山砦が陥落し、多くのカタリ派信者が火刑に処せられました。 こちらの小説の時代は、カタリ派の事件から約40年後ですが、 ドミニコ会による異端狩り・宗教裁判はまだ行われていた――そんな時代でした。 作中で、不祥事(と呼ぶには生温い陰惨な事件)を起こした修道院長が、ある「処置」を受ける場面があります。 これって、当時の一般的な手法だったのでしょうか? マインド・コントロールって、こうするのですね… このような昔から人格をコントロールする方法が考案されていたことに驚きました。 陰鬱な事件で、ある意味、人間の内面を描いたホラーかも。 小説はフィクションですが、アルビジョワ十字軍による虐殺は歴史的事実。 背筋が冷たくなる…そんな物語でした。 で、結局「○○○事件」って何だったのでしょうか…?(2018/03/09記) ↑このページの先頭に戻る |